ウラジオストクで8年目を迎える名物写真コンテスト「Look at Vladivostok」。ウラジオストクで撮影された数千枚の写真を審査し、最終的には本になって店頭に並ぶという大規模プロジェクト。このプロジェクトを1人で立ち上げ、ほぼ1人で運営する女性がヴィタ・ヴィタグラさん(Вита Витагра)。今回は彼女にプロジェクトを立ち上げた経緯や、写真、そしてウラジオストクの魅力について伺ってみました。
–ヴィタさんのご出身はどちらですか?
ウラジオストクで生まれ、ウラジオストクで育ちました。双子の妹が15年前よりモスクワに住んでいるのですが、双子の性で常に2人で居たため、私が遠くウラジオストクにいるのが寂しいらしく、ずっとモスクワに呼ぶんです。それで2年前に私もモスクワに住むようになりました。彼女は結婚して夫がいるのですが、すぐそばで私も住んでいます。愛犬バシリーサの世話もたまにしてもらいますよ。
カメラは持たずとも、愛犬バシリーサはいつも携帯する
–ヴィタさんが写真やカメラに触れるようになったきっかけを教えてください。
ソ連時代でもよくあったとですが14歳の時に父と母が離婚しました。父は他の女性と家庭を持つことになったのですが、その父がカメラや沢山のフォト用紙、現像機などを残していったんです。父は海上で仕事をしているいわゆる海の男でしたので、海外からカメラや機材を持って帰ってきては、写真撮影を自分の趣味としていたのです。私には2人の男兄弟と双子の妹がいて、4人でカメラをいじって遊びましたが、結局私が一番上手にカメラを扱い、私も写真撮影が好きだったので、どんどんカメラにはまっていきました。
お父さんの残してくれたカメラがカメラマン人生の始まりとなった
–当時はどういうものを撮影されていたのですか?
当時も今も、私の専門は人の撮影です。人の顔、家族写真、肖像などを撮影しています。人を撮影するようになったのは、まさに14歳からで、学校にカメラを持って行ってはクラスの友達を撮影し、そして家で現像してはプレゼントしていました。父が大量のフォト用紙を残してくれたので、私にとっては大したことでなかったのですが、ある時から友達がお金をくれるようになりました。ソ連時代でもあり、そんなお金を受け取るのはいけないとされていたのですが、用紙代にとどうしても皆が言うので、ありがたく受け取ることにしました。毎日代わる代わるの友達がくれるので、結構いいお小遣いになっていました。
–学校でカメラを持って行っても問題なかったのでしょうか?
ロシアでは今もおそらくその手の事は問題視されませんが、ソ連時代は更に牧歌的だったので全く問題になりませんでしたよ。
–義務教育卒業後はどうやってカメラを勉強されたのですか?
ソ連崩壊時期の1990年に1年間専門学校で学び、その後2年間専科大学に通いました。
–その当時のカメラマン教育機関というのは今とは異なるのでしょうか?
現在はカメラマンや写真撮影というのは、どちらかいうと芸術の一部となっていますが、当時は完全に単なる技術労働の1つで、修理工や理容師と同列に扱われ、それらが一体となった学校で学ぶ領域でした。ロシアでは伝統的に家族写真や肖像画を写真館で撮影するのですが、その写真館で9時から18時まで仕事するというのがいわゆるカメラマンの仕事でした。今のカメラマンの多くは、フリーランスですが、当時は枠にはまった固定した仕事で、教育機関もそれに合わせて国より営まれていました。
ソ連時代のカメラマンといえば写真スタジオでの勤務といった職人作業であった
–当時のカメラマンと今のフリーランス的カメラマンどちらが肌に合っていますか?
起きたい時に起き、行きたい時に外に行き、仕事があれば出かける、そんなフリーランス的自由な生活が私には合っていると思います。
–どんなきっかけで「Look at Vladivostok」を始めようとされたのですか?
2012年仕事でモスクワに滞在している時に、ロシア全土を扱った写真展を見ることがあったのですが、そこでは全くウラジオストクの写真がありませんでした。ウラジオストク人の私としては、残念な気持ちもあり、ぜひウラジオストクの素晴らしい写真を集め、色んな人に見てもらいたいという意欲が湧きました。そして2013年にウラジオストクで「Look at Vladivostok」を始めたのです。皆にウラジオストクの素晴らしい風景、人を見てもらいたいというのが一番の動機ですが、それと同時に私自身もウラジオストクの色々な風景、色々な角度、色々な視点で見たいというのがあったのです。私は、人の顔や肖像を撮影するのが専門で、ウラジオストクの風景や街は意外と見れていないので、このプロジェクトを通じて見られたらな良いなと思いました。
2013年に始まった「Look at Vladivostok」
表彰式には毎年メディアでも取り上げられる
2020年の展示は映画館オケアンで行われた
–「Look at Vladivostok」について簡単に教えて頂けますか?
2013年に始まって今年で8回目を迎えました。参加者は年々増え、今年は551人の参加者が計2359枚の写真を送ってくれました。最終選考には160枚がノミネートされ、それらが大きなパネルとなって展示され、本となり出版されます。毎年、テーマがあり、今年のテーマは4部門で「光と色」「感情と性格」「瞬間」「多重構想」でした。写真の募集は毎年1月1日から3月20日前後です。2020年分の写真展が来年開かれますが、その募集は2021年1月1日から3月21日の予定です。そして展示及び本の出版は2021年7月頃となります。今年は600冊を印刷しました。参加費は一切無料で、1人につき5枚までの写真を送ることができます。最終選考に残った参加者全てに本を贈呈し、そして各部門1位~3位までにはトロフィーに相当するもの、1位にはカメラ(SONY社提供)を贈呈しました。
パネルは展示が終わると全作品が受賞者にプレゼントされる
最終選考に残った全ての人にプレゼントされる記念アルバム
上位入賞者には職人手作りのメタル製の船が贈呈され入賞者に大好評
–参加者の内訳について教えていただけますか?
ほぼ全てがウラジオストク在住のプロカメラマンと愛好家です。ウラジオストクを旅したカナダ人がいて、今年参加してくれましたが、外国人はほぼ皆無です。
上位入賞者は今のところ、ベテランのプロカメラマンが多い
参加は地元ウラジオストクの人が中心となっている
–外国人も参加可能なのでしょうか?
もちろんです。なるべく多くの人、多くの視点でウラジオストクの魅力を集めたいと思いますし、その方が圧倒的に面白いです。来年は初めて日本人の審査員も招待したいと思っていて、旅行者を始めとして多くの人に参加してもらいたいと思います。今のところ、このプロジェクトの運営は私1人で行っていて、外国人というところまで力が及んでいませんが、ウラジオストクを訪れる外国人の参加は大いに発展させたいところです。
旅行者をはじめとした外国人視点の写真もどんどん取り入れ作品に幅を持たせたいという
–ヴィタさん1人で運営されているのですか?
私には幸い沢山の友人がいて、いろんな面で助けてくれ、また協賛してくれる企業もありますが、ほとんどのことは私1人で行っています。審査員を決めたり、会場を手配したり、本を印刷したり、協賛企業を見つけたり、できることはほぼ全てやります。2000人に招待状を送りましたが、これも私が各人に送りました。今年は自分でクラウドファンディングにも挑戦し、ウラジオストクの友人達が420000ルーブル(約70万円)ほど寄付してくれました。
–このプロジェクトにかかる費用はどのように捻出されているのでしょうか?
初年度から数年前までは、協賛し経済的に援助してくれる企業もあったのですが、ここ数年は金銭的な援助が途絶えてしまい、ほぼ自腹で行っています。今年もクラウドファンディングで多少カバーすることはできましたが、4分の3は自腹で賄いました。私は大体のことはできますし、いろんな方面で助けてくれる友人達もいるのですが、典型的なロシア人としての欠点で、お金を工面するのが苦手なんです。とはいえ、私はこのプロジェクトが大好きですし、何より参加者や観覧者が皆喜んでくれるので、それが私にとっては何よりの喜びなので、ずっと続けるつもりですよ。
–ヴィタさんは日頃どのようにお仕事されているのでしょうか?
家族写真や肖像を撮影するフリーランスです。ただ長年の評判があるので口コミで色んなところから声をかけて頂けています。それと最近は講義したり、撮影法を教えたりといったカメラ教育に関する仕事も増えています。
ヴィタさんの作品1
ヴィタさんの作品2
ヴィタさんの作品3
–「Look at Vladivostok」の8年間変化を教えて頂けますか?
参加者の増加もそうですが、写真のクオリティー、審査員のレベルとも上がり、プロジェクトのレベルは毎年向上しています。
始まった当初、審査員はプロカメラマンのみならず、ジャーナリストや画家など他分野の人も集めて審査していましたが、今では厳選されたレベルの高いプロカメラマンのみを審査員としています。また最近はスマートフォンのカメラがとてもレベルが高いものになっていて、スマートフォンによる上位入賞も増えています。
審査員も見分けが付かないという最近の高機能スマートフォン
–スマートフォンの写真と、従来のカメラによる写真は見分けつきますか?
正直言って、見分けつきません。カメラ機能の高いスマートフォンで撮影した写真はまったく遜色ないです。
–スマートフォンやインスタグラムの流行はどのように感じますか?
多くの人が、手軽に写真撮影し、楽しめるようになっているのはとてもいいことだと思います。私自身も普段は重いカメラを持たず、スマートフォンばかりで撮影していますよ。
–ヴィタさんにとってウラジオストクの魅力とは何でしょうか?
ロシア全土は、多くが平地で平らな風景が多いのですが、ウラジオストクは例外ともいうべき坂や丘のある風景になっています。この地形はロシア全土でも見たことがないですし、これほど写真が綺麗に、多角的に撮影できる場所もないと思います。傾斜にマンションが並ぶ風景なんて、他のロシア都市ではありえないですよ。この地形こそが一番の魅力だと思います。また個人的にはここの気候、特に強い風が大好きです。風が吹くとおもわず手を広げて、背中一杯で風を受けてしまうんです。
ロシアの他の都市では見ることのできない傾斜に並ぶマンション群
傾斜がもたらす独特の風景
–ヴィタさんにとってウラジオストクの人の魅力は何でしょうか?
なんにでもすぐ反応してくれて,人助けが大好き、そしてエネルギーあふれ、かつ親切、これがウラジオストクの人の特徴で魅力です。
–どんなカメラマンが良いカメラマンだと思いますか?
いろんな出来事、風景、物に感動し、日常の中にも感動や新しさを見出し、それをカメラに収め続ける。そんなカメラマンが私にとっては良いカメラマンだと思います。良いカメラマンは良い観察者であり、良い発見者とでもいうのでしょうか。
–写真とはどのような人々にとってどのような存在だと思われますか?
多くの人も言うと思いますが、タイムマシーンというのが写真の役割かと思います。家族写真にしろ、風景写真にしろ、その時を写真に収め、そしてそれを見ればその時を思い出させてくれます。そして私自身も被写体の生きる、輝いた一瞬一瞬という時を収めているという意識です。
–最後にヴィタさんの夢を聞かせていただけますか?
「Look at Vladivostok」は、まだウラジオストク1都市ローカルな存在で、ウラジオストク住人にしか知られていません。これをロシア全土で知る人が増え、さらには他の国でもこのプロジェクトが知られるようになって、誰に尋ねても「Look at Vladivostokは当然知っているよ」と返って来るようになったら最高ですね。これが私の一番の夢です。二番目はこの展示を室内でなく、屋外の色んな場所を使ってできれば、これも面白いと思います。
ウラジオストクの家庭では毎年購入する人も少なくない
ロシア国内外で多くの人に知ってもらうのがヴィタさんの夢
常に元気、ポジティブで前しか見ていないと多くの人が評するヴィタさん。そんな彼女の周りには多くの友人、知人が引き付けられ、思わず手助けをしてしまうと言います。参加者も援助の輪も広がっている彼女のプロジェクトはきっと今後も色んな人の助けによって発展しそうです。8年も続き、ウラジオストク住民の年中行事にもなっているヴィタさんの活動がヴィタさんの夢の通り、ロシアのみならず海外にも響き渡っていくのも遠い将来ではなさそうですし、それを期待したいとも思います。
Look at Vladivostok公式サイト:https://lookatvladivostok.ru/
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